INTERVIEW 01

日本の住生活を本気で変える
―アクタスの「循環システム」という取り組み

株式会社アクタス
常務取締役
マーケティング本部長
大重 亨さん

横浜店 店長
高取 仁美さん

Photo by yOU

ヨーロッパ家具の輸入販売からオリジナル家具、インテリア小物を取り揃え、人々の住生活をサポートするライフスタイルカンパニー「アクタス」。提供されているのは、製品のデザイン性や質の良い商品だけではない。「廃棄される家具をなくす、アクタスの循環システム」を構築し、サステナブルな仕組みを長く実践してきた。創業への想いと、これまでの歩み、コロナを経た日本の住環境の変化について、常務取締役 マーケティング本部長の大重亨さん、横浜店店長の高取仁美さんのおふたりにお伺いした。

使い続けたくなる製品であるためには?

「永く使い続けたいと思える、愛着が増す商品だけを提供する。」 これはアクタスが実践している5つのアクションのひとつにして、筆頭に掲げられる言葉だ。常務取締役 マーケティングの本部長、大重亨さんによれば、これこそがアクタスの考えるサステナブルの起点だという。

大重使い続けたくなる商品というのは、決して色や形だけのことではない。生活が豊かになった実感があるとか、家族のコミュニケーションが取りやすくなったとかいう情緒的な部分も含めて、買ってよかった、これからもずっと使いたいと思えるものであってほしいし、我々はそのような商品を提供しつづけたいと考えています。

実際にアクタスで扱っている商品は、時代を超えて愛されるデザインであり、品質も優れている。いっときの間に合わせなどではない“ホンモノ”は、生活に潤いや張り、心の余裕を与えてくれるだろう。

だが、商品はいつしかくたびれる。もしくは家族が増え、サイズの大きなものが欲しくなる。または、年月を経て好みが変わり、新しいものへと買い替えたくなる。

そのような「買ったあと」に対しても手厚いフォローを用意しているところが、アクタスが家具業界で抜きん出ている由縁だ。リペア職人による修理や、不用品の次なる使い手とのマッチング(トレードインサービス)を実践するばかりか、やむなく廃棄する場合も素材ごとに解体し、分別し、再利用する仕組みを運用している。

この「廃棄される家具をなくす、アクタスの循環システム」は、ひとりの社員の想いから始まったのだという。

SDGsやサステナブルという言葉がまだ一般的ではなかった2005年当時、アクタスは新しい家具のお届けと引き換えに受け取る使い古しの家具を、中間処理業者に費用を支払って処分してもらっていた。そんななか、製造品質企画部の杉田昇さんは「木材の部分だけでも家具の素材として再利用できないだろうか?」と考えた。大重さんが振り返る。

大重杉田君は日本のパーティクルボード製造メーカー11社すべてに電話し、「廃材の木をチップ状に砕いたものをパーティクルボードに再生することはできませんか」と相談したのですが、すべて断られました。家具の木材部分は表面にラッカー塗装がされていたりシート張りという本物の木材ではなかったりして、住宅用建材に使われるパーティクルボードとしては精度が落ちるというのが理由です。でも、何かしらの可能性があるのではないかと粘ったところ、11社のうちの1社の環境室長が「非常に素晴らしい試みだからやってみましょう」と言ってくださったのです。

一念岩をも通すという言葉があるが、突破したのはこれだけではなかった。

その1社は茨城県の企業で、アクタスの倉庫は千葉県千葉市にあった。立ちはだかったのが「廃棄物処理法」だ。廃棄物はそれが出た自治体で処理しなければならない。つまり県境をまたいではならない。杉田さんらは千葉県千葉市と茨城県双方の自治体に「資源を無駄にしたくないんです」と何度も掛け合った。

大重最初はたらい回しにされましたが(笑)、3年通い続けたら、両方とも味方になってくれて。最終的には「こういう方法なら運搬はできるかも」と、アイデアをいただけるようになったんです。

無事に認可が降り、木材の分別作業によって再生パーティクルボードに生まれ変わった素材を新たな家具に利用するリサイクルシステム「エコ・ループ」を2009年にスタート。ガラスやウレタン、革、金属、プラスチック類、梱包資材に至るまで、すべての廃棄物の再資源化ルートも確立し、2014年に関東と関西の2拠点で、2017年には全国の物流拠点でゼロエミッション(廃棄物ゼロ)を達成した。家具業界においては革命的なことだった。

アクタスの目指す「真に豊かな暮らし」

1969年にアクタスは創業した。時は高度経済成長期の真っ只中。作ったものは端から売れていく“大量生産・大量消費”な生活を日本中が謳歌し、そのモノの豊かさこそが幸福感と直結していた。

だが、創業メンバーたちの考えは異なっていた。ヨーロッパの家具に惚れ込み、「豊かな暮らしとは消費を繰り返すことではなく、作り手の顔が見える製品とできる限り長い時間を過ごすことではないか」と信じ、輸入家具事業を行うために「ヨーロッパ家具・青山さるん」をオープンしたのである。それがアクタスの前身だ。

大重日本の住生活は欧米との差が大きく、真に豊かな暮らしをしてもらうにはそのような素晴らしい製品を世の中に紹介することから始めなければならないと思ったのです。

アクタスは、ヨーロッパのハイクオリティなブランドの商品を販売するだけでなく、製品寿命の長い「ロングライフ商品」の開発や、デンマークで1950〜70年代に製造されたテーブルや椅子を買い付け、愛知県の提携工場で修理して商品としてよみがえらせてもいる。さらには顧客の声に応える形で、人体に影響を与えない素材で家具を製作した。

大重つまり、2005年にいきなりサステナブルな企業になったわけではないんです。2003年、いわゆるシックハウス対策として建築基準法が改正され、建築業界では接着剤などの原料として使われていたホルムアルデヒドが規制されました。一方、家具やインテリア用品には法的規制はなかったのですが、アクタスは子どもたちが使う家具から建築業界と同じレベルを徹底することにしたのです。

ルールは厳格に守られ、まもなく子ども用家具以外の商品でもすべて基準をクリアした。そうして「環境負荷を最小限に抑制する」というテーマが、次なる目標として見えてきた。

振り返れば創業から20年目の1989年、アクタスの会社案内を刷新するにあたり、制作を担当した大重さんは「創業者メンバーの想い」をひもといたという。会社案内の冒頭を飾ったボディコピーは、こう結ばれた。

「過剰な演出に惑わされた時代を終え、現在はまさに自分自身に正直に、自然体で生きることの価値を知る時代となった。そしてうわべだけではない本物の良さを持つ生活道具を通じ、真に豊かな生活を提案していくこと。それが我々アクタスに与えられた使命であると考える。」

当時はバブル景気の只中であり、メッセージは世に受け流された。だがその20年後、創業40周年を記念して作成された『ACTUS History Book』巻頭に同じ文章が綴られたとき、書店で販売されたこともあって多くの反響があったという。時代が、ようやくアクタスに追いついたのだ。

お客様のライフスタイルに寄り添い続ける

横浜ベイクォーター5階にある「アクタス横浜店」。広々とした店内は、手前にインテリア小物が、奥に大型の家具がゆったりと配置され、部屋に置いたときのイメージが十分に想像できる。来店客たちは若いカップルからミドル世代まで幅広く、アクタスでの購入や商品の検討を目的にしているためか、ゆっくりと時間をかけて回っている。

聞けば、2006年のオープン当時から付き合いの続く顧客も多く、ライフステージが変化したあとの家具の買い替えなどもこまめに相談しにやってくるそうだ。店長の高取仁美さんは「お客様のお困りごとを解決する存在になりたい」というアクタスの想いをしかと受け継ぎ、体現してきた。

高取私たちは時間をたっぷりとってお客様に対応することを心がけています。そうすることでお客様が本当に困っていることや求めていることを知ることができるからです。具体的には、コーディネートがわからないとか、新居を構えるにあたって図面はあるけれど立体の空間での想像ができないとか。結婚の際に用意したお手持ちの家具を「そのまま使うことはできますか?」と尋ねられた場合も、「新しいものに変えましょう」ではなく、どのように生かして他とコーディネートしていくかをご提案しています。

他社で購入した家具をどうにかしたいという相談も少なくないそうで、それもケースバイケースで対応や提案をしている。

高取できませんとは言いたくないし、言わないようにしていますね。もちろん、言わずにいられるのは、細やかな対応とサービスができるお店のバックアップ体制が整っているからですが。

横浜店が特にユニークなのは、キッズイベントがもたらしたお客様との長い縁だろう。2月なら節分に鬼の面を作る、5月なら大きな鯉のぼりにみんなで色を塗るなど、季節ごとに子どもが楽しめるワークショップを長年にわたって開催。参加時は幼かった少年が二十歳になって来店し、そのご両親から「とうとう新居を構えることになったから、高取さんに相談したい」との申し出を受けたという。

アクタスでは20年分の顧客データが管理されているほか、3Dシミュレーションというサービスもある。顧客の家を3Dで表現したデータが保存されていて、例えば3年後に子どもの家具を追加したい場合にどんな家具をどのように置くのがいいのか、アドバイスしてもらえるのだ。

アクタスは、顧客満足度が非常に高い。それは、きめ細やかな各種サービスに加え、スタッフの親身で丁寧なコミュニケーション、もっと言えば顧客のイメージする「未来の居心地良い空間」を自分事のように受け止め追求していく、その姿勢がもたらしているのかもしれない。

コロナ禍を通して変化したライフスタイル

2020年に発生した新型コロナウイルスの蔓延によって、人々の住まい方、働き方は急激に変わった。大重さんは今回のコロナ禍による日本人への影響を「行きすぎていたところを、もとに戻すことができたかもしれない」と分析する。

大重アクタスの会員様からいただいたメッセージを読み解くと、「本来の生き方に立ち返った」というような声が多いんです。これまでは経済の論理が優先されていたけれど、そうではなく、日本固有の生活の美学を取り戻しているのではないでしょうか。

大重さんは北欧の暮らしを引き合いに出した。北欧の一般家庭には洗濯されたテーブルクロスが引き出しに何枚か入っていて、食事のときは必ずダイニングテーブルにかける。その理由は、インテリア性を高めるためだけではない。布を敷くことで、カトラリーを置くときにカチャカチャと音が鳴るのを防いだり、ワインや水の入ったグラスを倒したときに、対面に座る相手に水滴がかからないようにしたりするためだ。

大重それが生活のエチケットであり、美学なんです。日本にも日本人なりの生活の美学がありましたが、それは残念ながら脈々とは受け継がれてこなかった。でも、いまさまざまな気づきを得たことで、これからの日本の生活の美学を自分たちなりに作り出す、よい機会になると私は信じているんです。

谷崎潤一郎の随筆『陰翳礼讃』が書かれたのは1933(昭和8)年のこと。ほんの90年前の日本は、陰影の中に映える芸術を作り出すような風雅な国だった。建築、照明、食という、一般生活者の住生活も陰影のもとに存在していた。

ところが、大重さん曰く「戦争の期間を暗がりの中で生活していたので、終戦して一気に明かりが欲しくなり」、日本は隅々まで明るい国へと変貌した。工場などまんべんなく明かりを分散させるために開発された蛍光灯が一般家庭にこれほど普及したのは、世界中探しても日本だけなのだという。

しかし、コロナ禍を経て、アクタスは間接照明の需要を伸ばしている。変化の兆しがそこには見える。

最後に、「良い家具を作る秘訣は、人間を見つめること」という、創業当時のもうひとつの言葉に触れたい。

アクタスは実際、顧客の声を丹念に拾い集め、それを経営やクリエイティブ、サービス、ビジョンへと落とし込んできた。人間を見つめることを厭わず追求した結果が、いまアクタスが信頼される要因なのだろう。

大重やはりモノ作りや、僕が中心に担当しているマーケティングなどは、人間への理解を深めることでしか、その役割を果たせないと思うんです。いや、どんな仕事でも、人に対する理解を深めるということを忘れてはいけない。そこにすべての基礎がある。SDGs、サステナブルもしかりではないでしょうか。

大重さんは自らに言い聞かせるように、そう言った。

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Photo by yOU

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初めて出会ったとき、佇まいの美しさに胸が高鳴り、4.2kgという軽さに驚き、座り心地の良さに感動しました。そもそも木工製品にとって、細さや軽さと同時に、強度や耐久性を高めることは極めて難しい。そのため「AOYAMA」の接合部には、数多くの見えない工夫と手間がかけられています。 家具は本来ローテクな商品であり、椅子は椅子。ヨーロッパには70年、80年単位で、同じデザインで作り続けられている椅子がありますが、それこそサステナブルなことなのかなと。「新しさ」という価値は、次の新しいものが出たときに必ず薄れる。しかし、「美しさ」という価値は、100年経っても薄れない。美しいものは永遠に美しいのです。これからもアクタスはできうるかぎり、ロングライフなデザインの商品を開発したいです。

Text by Kaoru Hori  Photo©ACTUS

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